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日本人ギター製作家のポテンシャルにしびれる (text 3)

by Tomohiro OYA
藤井圭介さん(左)と荻野裕嗣さん(右)。すでに素晴らしい作品を作られていますが、この先もとても楽しみな製作家です。

そんな彼(荻野裕嗣さん)が海外のギターショー(BARBARA ACOUSTIC INSTRUMENT CELEBRATION)の帰りに同じ師匠のもとで修行したルシアー・藤井圭介さんとともにスタジオに寄ってくれました。ふたりとも今回出品された作品を持って!!荻野さんのギターはトップがイングルマン・スプルース、サイドバックがフレームメイプル、デザインはスモールジャンボのノンカッタウエイ仕様です。藤井さんは12フレット接合のOO(ダブルオー)サイズでトップがカルパチアン・スプルース(Carpathian spruce)、サイドバックがキルテッドメイプル。木目は違いますがふたりとも奇しくも同じサイドバック材です。まずは荻野君のギターから弾いてみます。以前、彼と話をしたときに”ノンカッタウエイの方が良い!”と意気投合していたのでワクワクしながじゃらん!相変わらずスパッと反応良く音が飛び出してきます。低音も豊か。でも、いつものズゴン!という感じではなく、中域高域と同じ味わいでスッとでてくる感じです。”今回サイドはダブルレイヤーじゃないんです”。なるほど、Ervin Somogyさんの系列をくむルシアーノ特徴のひとつであるダブルレイヤーではなかったのですね。そしてノンカッタウエイはやはり落ち着きます。音量もそうだし、よりバランス良く自然にサウンドホールから音が出てくる感じがします。喪失感がない。メイプルらしい粘りと腰のあるサウンドで弾いていると”いい音”と自然と言葉が出てしまいます。重量もずいぶん軽く仕上がっています。シングルレイヤーのOGINO GUITARはバランスの良いスポーツカーという感じです。速くバランスが良く素直で運転しやすい。そしてパワーも味わいもあって、ゆっくり流してもタイヤが鳴るほど飛ばしても楽しい。

荻野くんから説明を受けながら、ギターを弾く。見た目も音も美しく、思わず顔がほころぶ。

次は待望のFUJII Guitarを弾かせていただきました。藤井さんのことは荻野さんやお店の方から木工技術の高い細部まで神経の行き届いたギターを作る方だと聞いていたのでとても興味がありました。 ただWebで探しても常にSold Out、”幻のギター”なのです。それが突然目の前に現れたわけすから、ちょっといい感じじゃないですか、この状況は(笑)。小ぶりな12FOO(ダルブオー)シェイプのギターは抱えた瞬間にしっかりと作られていることが分かります。それと素朴な味わいがあります。いかにも手で工作したといった感じとでも言いましょうか、そんな感触(タッチ)です。ヘッドの加工やロゼッタの組木細工などに木工技術へのこだわりがひしひしと感じられます。弾いてみるとシュワーキラキラキラとまるで部屋中に砂金が舞ったような素敵なサウンドが広がりました。この感じは今まで聴いたことがありません。”うっひゃー、はじめてはじめて”と俺のハートが大騒ぎです。低音や中低域はボディサイズから想像されるまとまりの良いサウンド、でも中身はムチッとつまっていて、それでいてちょっとかわいく優しいサウンドです。女性シンガーのバックでこのギターが鳴っていたら瞬間イッてしまいます、トロケてしまいます。いやー、藤井さんにもやられてしまいました。藤井さんのギターには制作にかける彼のエネルギーが凄く入っているように感じました。1本作るのに相当な体力・精神力を使うのではないでしょうか。寡黙な藤井さんでしたが、エネルギーのすべてを制作に注いでいるからかもしれません。

藤井ギターの今まで体験したことのない素敵なサウンドに笑いが止まらない。
細密な寄木細工のロゼッタが美しい。

こうやってまったく個性の違うルシアーの最新作品を弾く機会に恵まれ、素敵な時間になりました。その日作業するためスタジオにいた赤工隆(レコーディング・エンジニア)にとっても有意義な時間だったでしょう。限られた時間の中で精一杯話をしました。彼らも僕が持ってきたMerrill C-28(アディロンダック・スプルース&ココボロ)とKevin Ryan Nightingale(シダー&インディアン・ローズウッド  )を弾きながら色々と思うところを伝えてくれました。それにしても荻野くんのオープン・マインドな態度には頭が下がります。自分のお客さんを同業者に紹介してしまうわけですからなかなか出来る行為ではありません。そんな荻野さんには是非、自分の理想に向けて進んでいって欲しいです。藤井さんの14Fの作品も是非弾いて感じてみたいです。また彼らの他にも先に名前を出した越前亮平さんや神田丈二さんや僕がまだ弾いたことはないけれど素晴らしい技術と熱い情熱、高い理想を持った日本人ルシアーがここ数年でぞくぞくと作品をリリースしています。海外ルシアーのデザインセンスや付加価値のつけ方、音楽性の高さは認めなくてはいけないところですが、日本人ルシアーたちももう随分良いところまで来ています。すでに秀でている部分もたくさんありますし、ポテンシャルは海外ルシアー以上だと思います。彼らのギターに出会うことがあったら臆することなく弾いてほしいです。きっと新しい発見や気づきがあります。イタリアに行ったときに、日本のイタリア料理のほうが美味しいと思いました。それと同じように西洋楽器のギターも日本人ルシアーの作品が一番美味しくなる日がやって来たのかもしれません。頼もしいかぎりで今後に期待せずにはいられません。

拙者のRyanを弾く藤井さん。色々と感じるところがあったようです。
Merrillも弾いてみます。Martinスタイルのギターも、かのパンチプラザースのギタリストが日本人製作家のそれを使っています。
Merrillを弾く荻野さん。Neil Young風。

ここで取り上げた藤井さんのギター(00-21というモデル名だそうです)を手に入れた陣ヒデヒロさんが動画を送ってくださいました。このギターのポテンシャルが伝わってくる演奏・映像です。アマチュア演奏家として大阪で活動されていてアルバムもリリースされています。陣さんはこのFUJII GUITARの他に僕がノックアウトされたマートル・ウッドのOGINO GUITAR(モデル名:Grace)とさらに一本、ハカランダのOGINO Guitar(モデル名:Anna)をお持ちというなんとも羨ましいお方。まさにREAL OYAMA CROSSROAD BLUESです。


Tomohiro OYA
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