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TOKYOハンドクラフトギターフェス2018

by Tomohiro OYA

今年も行ってきました。極上のマイナーイベント”TOKYOハンドクラフトギターフェス2018”@錦糸町すみだ産業会館サンライズホール。今年も数多くの素晴らしいギターに、製作家さんにお会いできました。

今回は大変混雑していたのであまりゆっくり話し込むというわけには行きませんでしたが、ここ数年、ベテランから若手まですごくワクワクする作品を生み出してきているなと感じました。大御所のWater Road(増田さん)さん、エム・シオザキ弦楽器工房(塩崎さん)さん、杉田健司さんはもちろん、その他にもとても興味深い作品が並んでいました。今回は海外からもSomogyさんのお弟子さんの人気ルシアー・Beauregard GuitarsのMario Beauregardさんも参加していましたが、日本人の作品はひけをとっていなかったと思います。

Ryosuke Kobayashi Guitars(小林良輔さん)
Sergei de Jongeのお弟子さんということで帰国してすぐのころから注目していた小林さん。出会った頃はSOMOGYとSergeiを合わせた素晴らしいギターを作っていました(こちらの勝手な見立て)。ここ数年はガットも含めて様々なギターを製作しいるようです。昨年のフェスに出品されていた”Yanase Cedar Project”は高知県魚梁瀬杉を使った超個性的なモデルでコンセプトの壮大さと施工のち密さに目と耳とハートを持っていかれた人が少なくなかったと思います。今回もグラナディロを使った個性的なモデルを披露してくれました。これがまた細部まで手の入ったこだわりの逸品。なにしろこの2台の制作過程をみたアメリカにある世界最大の楽器美術館、MIM(Musical Instrumet Museum)のキュレーター(学芸員)の方がオーダーを前提に工房に視察にきたそうですから。彼の作品がアメリカの博物館に並ぶ日は目の前なのかもしれません。ワクワクします。もう一台はRSというOMをもう少し丸くして胴を厚くしたモデル。ノンカッタウエイ専用シェイプということでカッタウェイが苦手な俺向きのモデル苦笑。ジャーマンスプルース・トップ、ハカランダ・サイドバックのオーセンティックなマテリアルは楽器屋さんのオーダーらしい。なんとも芯の太くパンチのきいたサウンド。プレーン弦のギラッとした感じはヨーロッパ系のトップ材の良いとことが出ているのか個性的でとても良いと思いました。端正なルックスもしまった感じでクールビューティー。後からサイドはホールライニングという構造をとっていることを知りました。これはラミネート構造に近いのですが発想が違うようです。詳しくはリンクをご覧になってください。シンプルに見えてここかしこにこだわりが見られる凝ったギターでした。

Keystone Stringed Instruments(西恵介さん)
最初に目に入るのが西恵介さんのKeystone Stringed Instrumentsのブースです。西さんのギターには昨年ものすごく感銘を受けました。その後楽器屋さんで御本人に偶然会いましたが、人気の彼の作品に出会うのは極々稀でなのでここに来るのを楽しみにしていました。今年の出品作は昨年のModified-D styleとは違う一見ギブソンを意識したと思わせるOMサイズのギターが2本。サイドバックの材やカッタウェイ(Scooped awayと呼ばれる特殊なもの)の有無で少しづつ仕様が違います。早速弾かせていただきましたがやはりいい音でした。小型のギブソンを意識したサウンドなのですが同時にマーチンOMのような美しい倍音もまとっています。西さんのギターは昨年のものもそうでしたが太い音がまとまりよくガツンと飛び出してくるのでかっこよいですね。倍音が整理されていてレコーディングでも使いやすそうです。”結局、材(マテリアル)も大切なんだけど製作家で音は決まるんですよね”という言葉に説得力がありました。そうは言いつつメイプルはメイプルらしいちょっと重たいキッチリとした音、マホガニーは広がりのあるスッキリした音できっちりとマテリアルの個性をきっちり引き出しているところが憎い。楽器屋さんに西さんのギターかっこいい音だなあ、と言うと必ず”オーダーすごくて待ち長いですよ~”と言われてしまうんですよね苦笑。

FUJII GUITARS(藤井圭介さん)
富山に工房を構える藤井圭介さんのFUJII GUITARS。シンカーレッドウッドをトップに使ったインパクトのあるルックスのギター、それと対象的にフィエンメ・スプルースというストラディバリウスも使っていたとされる北イタリア・フィエンメ渓谷で伐採されるかなり色の白いスプルースを使ったギターを出品していました。指板とブリッジの赤い木材はフェルナンブコと言ってバイオリンの弓に使われる材だそうです。サイドバックがメイプルであることからバイオリンを意識したモデルなのかなと思いましたが、ヨットをイメージしたんだとか。ヨットのマストもフェルナンブコなのです。そのサウンドは藤井さんらしいキラキラとした倍音を含んだサウンドでした。彼のギターはいつも1,2,3弦あたりの倍音が金粉が舞うようにキラキラしていて本当に美しいですね。ロゼッタやバインディング、ネックのヒールなどの凝った細工も彼ならではです。シンカーレッドウッドは見た目の印象とは違ってあたたかくてはっきりした音色です。サイドバックのマホガニーの特色が出ているのかやはり高域の美しいギターでした。また彼はもう1本、何故か展示台の下に隠し持っていて(?)て彼の作品で初めて知ったカルパチアン・スプルースとマホガニーというベーシックな組み合わせのものだったのですが、これも藤井さんらしい美しい倍音とバランスの良さが素晴らしかったです。今回のギターはどれもインストルメンタルというよりは弾き語りに合わせて作ったので女性シンガーソングライターに使ってほしいということでした。マーチン、ギブソンだけでなくこういう楽器もぜひ一度弾いてみて欲しいですね。

西さんと藤井さんのブースの間にはOGAWA INLAY CRAFTさんのブースがあって昨年も5人のルシアーによる素晴らしいコンセプト作品が展示されていましたが今年は西 恵介さん藤井圭介さん、そして小川貴之さん3者によるスペシャルコラボレーションモデルが発表されていました。
The Day and Night of Morning Gloryと名付けられたこのプロジェクトは西さんと藤井さんがそれぞれ同じ木材の組み合わせで同サイズのギターを製作するというもの(インレイはもちろん小川さん)。同条件でのサウンドを比較するという目的で完成したモデルだそうです。サウンドはばっちり二人の個性が表現されていました。先ほど触れた西さんのカッコよいサウンド、藤井さんの砂金サウンドが出てきて西さんがおっしゃっていた”結局製作家の問題なんですよね”という言葉がより説得力を増しました。数年前にERVIN SOMOGYのトップ材だけが違う3本のギターを使ったCDがありましたがこういう企画は実に興味深いですね。

OGINO GUITARS(荻野裕嗣さん)
一目見ただけでSOMOGYさんの弟子ということがわかる荻野さんのギター。そのコンテンポラリーな職人魂を引き継ぎつつ、シャープなルックスとは対照的とも言えるウッディなサウンドを意識して製作しています。今回の新作はサイドバックにブラック&ホワイト・エボニーというプレゼンテーション性の高いど派手な材を使ったモデル。エボニーは硬くて重い材なのでサウンドもシャープで反応の良い彼らしいモダンな音でした。低域の重み、中域の厚みも十分。以前彼はサイドをWレイヤーにして剛性を上げたギターを作っていましたが、今は全体が鳴るようにとシングルレイヤーを採用しているということです。その効果は十分に出ていて楽器全体でサウンドするギターに仕上がっていました。ただサイドの強度にはすごくこだわっていて流行りのサイドポートは強度に影響が出るのでやらないとのことでした。師匠の意志を継いだ彼らしいこだわりです。もう1本はすでに販売されている物をオーナーさんから借りてきたというイングルマンスプルース・トップ&ハカランダ・サイドバックのモデル。トップの特性が出ているのか柔らかい音色で弾きこまれている感じの鳴りがしていました。荻野さんは特に若いプレイヤーに人気があるようでお客様がひっきりなし。今回はあまり話ができませんでした。また富山に行かなきゃ(以前仕事で金沢に行ったときに富山の工房に寄らしてもらったことがあるのです)。回転ずしでも十分おいしい素敵な富山でじっくり話したい。

Echizen Guitars(越前良平さん)
小林さんと同じくSeregi de Jongeのお弟子さんで早くからその精巧な作業ぶりで自分を驚かせた越前さん。ここ数年、ますますその技術はもとよりサウンドに磨きがかかってきたと感じています。今回はガットとスティール弦の2本を出品。個人のオーダー品でペアでデザインを合わせてあります。今回は主にガットを弾いてみたのですがこれが素晴らしい出来でした。とにかく反応が早く太くて柔らかな音がパシパシ前に出てきます。弾いていてものすごく気持ちがいい。エレベーテッド・フィンガーボードなどの細かいこだわりや厳選されたマテリアルも効いているのでしょうが”これからはもっと緩く作ろうと思います”という自然体が楽器の持つポテンシャルを引き出しているのかなと思いました。欧米と日本の製作家の作品を比べると日本の楽器は端正だけれどサウンドが小さくまとまっている感じがしていました。なぜだろう?といつも思っていましたが日本人の几帳面さやキメの細かさがギターという木工品の楽器としての鳴りを固くしてしまっているのかなと最近思っています。楽器が鳴るというのは構造物としての堅牢さや緻密さでは測れない絶妙なバランスがあるのかもしれません。だからといって彼の作品が緩いかと言われればその細かく丁寧で神経の行き届いた仕事ぶりには感心するばかりなのですが。彼に”インディアンロースウッドのサイドバックに合わせるのはシトカスプルースとジャーマンスプルースだとどう違うかな?と聞くと”シトカとインディアンは王道の組み合わせですね”というありきたりの答えしか帰ってきません。芯が太いのはどっちかな?と聞けば”ベアクローがいいです”と木で鼻をくくったような返事。これは別に彼がそっけないというのではなく”楽器は結局できてみないとわからない”ということを基準に考えている結果だと思います。僕もそこに賛同します。だから個人的にカスタムオーダーに興味が無いのです。狙ってできるものじゃないところが木工の、楽器の面白さだと思います。

皆さんのこれからの作品が待ち遠しくなりました。来年も楽しみです。
東京ハンドクラフトギターフェス2018


Tomohiro OYA
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